いろいろなことに興味があり過ぎる問題点について

いろいろなことを興味の赴くままに

さざんか、新た、Akb

 『さざんか』といえば、秋の終わりから冬に咲く花として有名だ。花弁が幾重にも重なり、物憂げな季節を鮮やかに彩ってくれる。その美しさに、人気が高い。

 童謡の『たきび』でも、道にさざんかの花が咲いていることを歌い、歌謡曲でもさざんかを扱ったものは多い。

 だが、ちょっと待った。この花の名前、漢字ではこう書く。

 「山茶花」。

 『山』は「やま」であり「さん」であり、訛って「ざん」とも読むが、「さざん」という読み方はないはずだ。「山茶」と書いて、「さざん」とも読めない。ここで、『茶』が「ちゃ」であり「さ」と読むことが出来ると気づけば、答えが出てくる。

 逆なのだ。

 本来の名前は『さんさか』なのだ。どういうわけか音の並び順が入れ替わって、『さんざか』となり、訛って『さざんか』となった。

 

 このような現象を『音位転換』という。

 

 子供が読み方を間違えてしまう言葉のひとつに、「雰囲気」がある。なぜか「ふいんき」と読んでしまうことが多いが、漢字を区切って読めば「ふんいき」である。音位転換が行われてしまったわけだ。

 先の『さざんか』はすでに音位転換された言葉が主流となって、学名も『Camellia sasanqua』となっている。

 

 子供の頃の漢字に関する思い出といえば、『新た』の読みに悩んだ気がする。

 『新しい』は「あたらしい」。これは普段の生活でよく使われる言葉なので、あたらしいという言葉を漢字で書くとこうなるという理解で済む。しかし、『新た』は「あらた」である。「あらたに」とか「あらたな気持ちで」というのは、幼少期にそれほど接する言葉ではなかろう。そして、『新しい』という漢字を知ると、『新』は「あたら」と読むから『新た』は「あたらた」なのかなと思うと、そうではないという。これが分からなかった。

 これも音位転換なのだ。

 『新しい』は本来、「あらたしい」が正しいのが、「ら」と「た」が逆になって、定着していまったらしい。そしてこれは、言葉遊びから生まれたようだ。

 「話の『ネタ』」という言い方があるが、この『ネタ』は「種」の音位転換である。植物の種は成長して花を咲かせ、実を結ぶ。これになぞらえて、何らかの大本となるものを『種』と呼んだ。言葉も組み合わせや表現などによって文章となり、やがて物語を形成するから、その大本となる素材を話の『種』というわけだ。

 本来は「話の種」というべきところを、「話のネタ」と表現する遊びを思いついた人がいたらしい。ひと昔前のTVのバラエティ番組でも、芸能人が「ハワイ」のことを「ワイハー」と言ったり、「銀座」を「ザギン」と言ったりと、語順を変えた表現をすることがあった。それと同じで、こちらは江戸時代の頃のようだが、「種」を「ネタ」と言い、「あらたしい」を「あたらしい」と言って、ちょっと他人とは違うアピールをした人がいて、それがやがて定着してしまったのである。「だらしない」という言葉も、本来は「しだらない」だったのを、入れ替えて読む人がいて、当時は「おかしな言葉使いをする人たちがいる」と言われていたのに、いつしか後者が正しい言葉になってしまった。

 

 中には判断に迷うものもある。

 東京都千代田区にある『秋葉原』。

 かつての電気街としても、現在ではオタク文化の街としても有名だが、さてどう読むのか。

 地名は「あきはばら」である。しかし、この地の愛称のひとつに「アキバ」がある。『葉』は「は」とも「ば」とも読めるし、『原』も「はら」でも「ばら」でも、濁音になるだけで特に問題はない。アイドルグループの『AKB48』の「AKB」は「アキバ」の略である。

 「地名としては『あきはばら』だが、『アキバ』という通称が定着してしまっている。間違っているのだが、もはや変えようがない」という意見もある。

 ではそもそも、この地がなぜ「秋葉原」と呼ばれているのか。

 明治2年に火災が起こり、防火の神として知られる秋葉権現を勧請して秋葉神社を建立したのが始まりで、神社は後に移転したが、秋葉神社の原ということで『秋葉原』となったようだ。

 秋葉権現の読み方は「あき『ば』ごんげん」で、神社の名前は「あき『ば』じんじゃ」である。

 現在の地名は「あきはばら」になっているが、実は間違いで、「あきばはら」が正式なのだ。しかしいつしか、「あきはばら」になってしまったのである。間違っていると思われた『アキバ』が、実は正しかったのだ。ただし、同様の誤差は別にもあって、愛知県にある秋葉山の読み方は「あき『ば』さん」なのに、静岡県にある秋葉山は「あき『は』さん」なのである。

 現在の地名は間違いだと言ったが、実はどちらでも良いのかも知れない。秋葉権現も案外、気にしていないのではなかろうか。千代田区では『AKIBA観光協議会』が発足されており、当地においても「あきは」でも「アキバ」でも構わないようだ。

 

 現在ではごく当たり前に使われている言葉も、実は間違いだったのに定着してしまった。あるいは、通称だったのが正式名称になった。あるいは、年月を経るうちに訛って変化した言葉は、まだまだたくさんある。

 興味があれば、いろいろと調べてみるものいいかも知れない。意外な発見が待っている可能性がある。

 

 

 

 

 

サザンカ

サザンカ

 

 

 

 

広辞苑 第七版(普通版)

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